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虚空の黙祷者

クローカ/黒岡衛星の日記帳

雪、無音、窓辺にて。

 さて、俺は今からパーフェクトジオングを建造しようと思う。

なんのことかわからない?まあ当然だろう。
ここに一冊の漫画がある。平野耕太の描いた『進め!!聖学電脳研究部』 という作品だ。この中から台詞を引用させていただく。

「そんなパーフェクトジオングみたいな珍妙な生き物いるわけがないじゃないですかッ!!」

この『パーフェクトジオングみたいな珍妙な生き物』というのは『外見が詩織で性格虹野、夜は鏡。そんな娘』というものなのだが、若いオタクにはいまいち想像しづらいかもしれん。かくいう俺も10代だが、年の離れた兄貴のせいで随分と趣味が偏っていて、というのは本筋に関係無いので置いておく。ともあれ、

いるのだ。俺のすぐ近くに。パーフェクトジオングが。正確に言うとそれに類するものが。

ゲームの中にしか存在しないような可愛い子が、俺のすぐ近くにいる。俺がその可愛さを挙げていく度に、ジオングはよりパーフェクトに近づいていくはずだ。

背が小さく、細身で、小動物的。苛めたくなるようでいて守りたくなる、愛嬌ある顔立ち。ややハスキーで中性的な声。ショートカットで眼鏡をかけたその姿はアレだ。

長門有希

だがしかし、長門もジオングも完成することはない。もうコクピットからして設計不良と言っていい。要するに、

男なのだ。

随分と引っ張ってしまったが、まあ、そういうことだ。俺は何を呪えばいいのかわからんが、少なくとも当人ではないだろう。ちなみにその男長門(面倒なのでN、と表記する)はといえば、何が気に入ったのだか俺の周りをよくちょろちょろしており、まあ、友人関係と言っていいと思う。

「……ねえ、僕、女装しようと思うんだ」

一応確認しておく。彼は彼でありつまり男であり女性が好きなのであって女性になりたいわけではない。頭の回転こそよろしくないが決して奇行に走るやつではなかった、筈なのだが。

「……なんでまた」
「男らしくなるために、敢えて女性の格好をするといいって、『はがない』で言ってた!」 

ああ、うん。馬鹿だ。

「そうか、がんばれ」 
「ちょっと、せっかく僕が勇気出して相談したんだから、手伝ってよう」 
「そうは言ってもなあ……」 

まて、心当たりがあるぞ。

「よし、ちょっと待ってろ」

俺は携帯を取り出し、とある番号を呼び出す。

「……アナタのような下賎の者に呼び出されるなんて不快だわ」
「今度のはなんだ」 
「愚問ね。『俺妹』の黒猫よ」
「似てねえ……」 
「心外だわ。声質がちょっと違うぐらいで」 
「ちょっとじゃねえ……俺の花澤香菜はそんな声してねえ……」
「相変わらずの気持ち悪さね。で、何の用かしら」 
「それなんだがな」 

俺がこの似てない黒猫(以下、Kと表記)に現状を説明すると、案の定ノってきた。

「わかったわ。連れてきなさい」
「すまん、頼む」 
「別に。かまわないわ」 

Kはコスプレイヤーというやつである。高校で別になってしまったが、中学時代はNもKも同じ学校、クラスであり面識も親交もある。今も同人イベントなどで顔を合わす程度には交流があるし、ちょうどいい。

Kの家に行くと、黒髪ロングのウィッグにカラーコンタクト、そしてあずき色のジャージ姿で出迎えてくれた。そっちかよ。

「こんなこともあろうかと準備しておいて良かったわ」
「お前のお下がりじゃねえか」 
「ククク……我が聖衣を纏えることを光栄に思うがいい」 
「わかりづらいけどそれ小鳩か」 
「ククク……」 
「だから花澤キャラやめろ。嫌がらせか」 
「あんちゃーん!」 
「もういいっての。にしても……」 

俺は自分の判断が間違っていないことを確信した。なぜなら、Kが用意していたのは涼宮ハルヒの制服と薄紫のウィッグ。『なれる!長門有希セット』だ。

さて、俺は、というより俺たちは、これからパーフェクトジオングの建造にかかる。決して完成することはないと頭の片隅で理解していても。

「恥ずかしいなあ……」
「羞恥心を捨てるのも男らしさなのではないかしら」 
「そうかねえ」 
「アナタは出てなさいな。女子の着替えよ」 
「いや男だし」 
「この子は今から女子になるの」 
「え、僕、女の子になっちゃうの?」 
「ならねえよ……いや、出るのは構わんが」 

いいと言われるまで廊下に出ている。窓を見れば、雪がちらついている。俺は消失するのがNの男としてのプライドでないことを祈る。

「どう、かな……?」
「……お前より似合ってるんじゃねえの」 
「悔しいけど同感ね……」 

もうKはキャラ作りをほっぽり出して感動している。表情にこそ出さないが、俺も驚きの気持ちでいっぱいだ。

もうコクピットが違おうがいいじゃねえか。ガワがジオングならジオングだよ。パーフェクトに近いよウォルター。

「スースーするう」
「お約束いただきました」 
「何サムズアップしてんんだよ」 
「僕、これで本当に男らしくなれるのかな……」 

「「無理」」

「えーっ!?」

恥ずかしがりながら慌てるNと今にも鼻血を流さんばかりにテンションを上げているKを横目に、俺は理性の消失を心配する羽目になった。クソ、可愛いな。

 

(この掌編はふたたねさんのSSコンペ第七回、お題:『雪』に参加させていただいたものです)