虚空の黙祷者

クローカ/黒岡衛星の日記帳

掌編

一人の少女が飛行機から飛び降りる

旅客機に少女が乗っている。席は窓際で、残りの乗客はすべて眠っている。乗務員もおそらくは、すべて。機内には静かな寝息のみが漂っている。睡魔。旅客機は何事もなく飛んでいる。窓の外、主翼の上で妖精が少女のことを見ている。妖精、おそらくは。翼を持…

レモンを買おう

爆弾の解体が上手い子であった、等と云えばギョッとされる向きもあるとは思うが、あれはそういう娘なのだということを理解して欲しい。 「病弱は、萌えなんですよ」「満足したかね」 「あまり」 保健室のベッドが特別に感じられるのはせいぜい入学して一週間…

メタモルフォーゼは四倍なのです

『ぼくは、おおきくなったら、あやかしにすみたいです。』 書き出しが子供時代の文集の引用から始まる文章というのもなんだかナルシスティックではあるけど、今からきみが読まされる文章というのは、そういうものになる。これは壮大というにはいささか陳腐な…

雪、無音、窓辺にて。

さて、俺は今からパーフェクトジオングを建造しようと思う。 なんのことかわからない?まあ当然だろう。ここに一冊の漫画がある。平野耕太の描いた『進め!!聖学電脳研究部』 という作品だ。この中から台詞を引用させていただく。 「そんなパーフェクトジオ…

Book of Saturday

だからきっと、それは、嘘の話だ。 公園のベンチに座る君は一冊の本を持っている。単行本だが、薄い。簡素な表紙にはタイトルが書かれているのだけど、意味が覚えられず、すぐに忘れてしまう言葉がアトランダムに選ばれているような気分になる。君はその本を…

Smiley Smile

カードの請求書に不審な点があったため、妻を尋問することにした。 「めぐみさん、今回は何を買いましたか」 「『神に捧げるティーンエイジ・シンフォニー』です」 「あなたもう20歳でしょうが。『スマイル・セッションズ』の一番高いやつ、と正直におっしゃ…

Eat Me, Drink Me

これは試練である。 小さくて四角い、一口サイズのチーズを皆様はご存知だろうか。スーパーの乳製品コーナーに行けば置いてあるアレだ。美味しいよね。異論は認めない。アレルギーのみ可とする。私もそばのアレルギーなので気持ちはよくわかる。いやわからな…

Skeletons from the closet

本当の朝の空気を知っているのは、極端な早起きか夜更かしのどちらかだと思う。仕事の、学校の、社会の喧騒と夜のしじまのその隙間、朝がバタバタとうるさく足音を立てるのを待っている、少しの間。 私は早起きで夜更かしだ。ついでに言うと眠るのが好きだ。…